設計の自由度が高いのは、どんな土地でしょうか。
クライアントが細かい空間のイメージを描けていない段階で土地を探す際は、この感覚が重要になります。それには建築と不動産のあいだの視点で敷地を読み取ることが必要です。
建築家の高塚章夫さんが設計した、杉並区の閑静な環境に建つ新築住宅です。
建て主は、住みたいエリアの希望が明確にありましたが、すぐには土地が決まらず、建築家と共に十数件の土地を見ていきました。
駅近くの土地は利便性は良いけれど容積率が大きく、周辺建物の密度も高くなります。
駅から少し離れるけれど、ゆったりした周辺環境が適していると、駅から徒歩20分弱の閑静な住宅地の一画に行き着いたのです。
見つけた土地は北側と西側に接道する、約130㎡の角地でした。
従来の不動産の常識では、南側に開けた整形地が最も良い土地とされます。
その意味でいうと、北と西に道路があるこの土地は必ずしも良い方位とは言えません。
しかし、建築と不動産のあいだの視点で見てみると、設計の自由度がかなり高く、大きなポテンシャルを持った土地でした。
道路を挟んで北側には緑豊かな区画、南側には駐車場が隣接しています。
また、その他の周囲に建つ住宅も広い庭があり、どの方向を見ても「抜け」がある立地でした。
これにより、建築を設計する際、平面的に広さを感じる空間をつくれる、光や視線が抜ける心地良い場所をつくれるといった自由度が高まります。
また、建築の高さを考えても、設計の可能性が広がる土地でした。
第1種低層住居専用地域にあたるので、建築物には北側斜線制限がかかります。
これは、北側の隣人の日当たりを考慮し、南からの日照の確保のために建築物の高さを規制するルール。北側の隣地境界線上に一定の高さをとり、そこから一定の勾配で記された線(=北側斜線)の範囲内で建築物を建てるというものです。
北側に道路がある場合は、道路とその向こうの敷地の境界を基準に斜線制限がかかるので、道路を挟まず隣接する場合よりも、高さの規制が緩やかになり、設計の自由度が高まります。
敷地を立体的に捉えること、周辺環境も含めて考えることで、その土地が持つ大きな可能性が見えてきます。
この敷地に、高塚さんは2階建ての住宅を設計しました。
1階に水まわりや個室を設け、2階は南側にデッキテラスを持つ大きく開けた空間という構成の住宅が完成したのです。
以下、建築家によるテキストです。
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都内の閑静な住宅地に建つ鉄筋コンクリートと木造の2階建て住宅です。敷地が2つの道路に面する角地にあるため、主な居住スペースを2階に設けました。2階はリビング・ダイニング・キッチンを吹き抜けのあるワンルームにし、南のテラスに向かって開き、仕事・勉強部屋(将来は子ども部屋に変更)を日照が穏やかな北面に配しました。一方、1階は寝室や浴室などの水回り・収納など小さな部屋をまとめました。1階を道路から少し奥まらせ、防音性の高いコンクリート造にすることで、塀を築くことなく十分なプライバシーを確保しました。また通りに沿って庭を作り、行き交う人々も楽しめる四季折々の風景を地域に開放することができました。
コンクリートの上に家型の木造が載りずれることで、1階に屋根付き駐車場、2階に南面するテラスが生まれました。このダイナミックな構成は、敷地条件や間取り、構造的な合理性を突き詰める中で、必然的に生まれました。また、落ち着きの感じられる静かで機能性の高い1階の個室に対して、明るく開放的で大きな窓に囲まれた温かみのある木の大屋根に包まれた2階という対照的な空間の特徴も、この住宅の中に様々な居場所を作り出しています。(高塚章夫)
- 住所:東京都杉並区
- 主要用途:専用住宅
- 敷地面積:130.88 ㎡
- 建築面積:78.49㎡
- 延床面積:120.17㎡
- 構造規模: RC造+木造 2階建て
- 設計・監理:Aaat Inc. 高塚章夫
- 不動産コンサルティング:創造系不動産 川原聡史
- 竣工年月:2023年12月
- 写真:平井広行
- 記事編集協力/玉木裕希