―――建築模型を展示するミュージアムの建築倉庫ディレクターという肩書で、活躍される近藤さんですが、創造系不動産や高橋寿太郎さんとはどんな関係ですか?

 

(近藤)

建築家として設計事務所を開設した当時、まったく不動産の知識がないことが大きな壁として立ちはだかりました。それまで勤めていた芦原太郎建築事務所では、住宅ローンや土地探しから建築プロジェクトが始まることを経験していませんでした。そこでご縁あり、創造系不動産に入社することにしました。

高橋さんが創造系不動産を立ち上げてから10年以上経ちますが、私はその黎明期に携わった立場です。高橋さんは最初から、5年後や10年後の姿を明確なビジョンをもって言語化する経営者でした。それがいま現実になっている姿を見て、すごいなと感心すると同時に、私はその拡大する様を勉強していました。

みんなが近い将来に経営者になることを想定し、高橋さんが会社経営の状況をメンバーときちんと共有している姿や、管理会計や資金繰りなどの一般的な会社では通常は見れないことを、時間をかけて見せていました。他にもバックオフィスの状況や、個人からチームができあがる姿を、高橋さんと私とほか数名という、メンバーが少ない当時から知ることができたこと、また一緒にいれたことが貴重な体験でした。

建築の領域を横断的にみる視点は、私が創造系不動産で得たことであり、尊敬の念を抱いています。

 

―――高橋寿太郎さんは、近藤さんの現在を見てどう思いますか?

 

(高橋)

創造系不動産のことを良く言ってくれましたが、幸いなことに、その後、様々な才能を持つひとたちが集まりますが、それは近藤さんのおかげです。

創造系不動産のメンバーは建築学科出身で、設計事務所に勤めた後で、創造系不動産に来てくれています。創造系の底力はそこから生まれるのですが、ただしこれは、やはり強い意思がないと起こらないと思うんです。

建築と不動産の専門家がタッグを組んでお客様に貢献していくことが、絶対にベストな方法です。しかし不動産業界には、そのタッグを実現するために、建築の世界観、設計事務所の魅力、建築家の哲学を理解できる人がいません。だから何としてでも建築出身の人に来てもらわなければいけないんです。でも、創業3年間くらいは、どれだけ募集しても、誰も来てくれませんでした。

一人では何もできません。もうしょうがないので不動産出身の営業マンを採用しようかというところまで来ていましたが、そこに近藤さんが来てくれたんです。もう全員独立しましたが、須永則明さん(アーキランドラボ)や、野々垣賢人さん(きんつぎ)、佐竹雄太さん(アラウンド・アーキテクチャー)、藤谷幹さん(まちアーキ不動産)が、その後に立て続けに入社してくれました。彼らが初期リーダーズとして大活躍する土壌を、近藤さんが創ってくれていたんです。

創造系不動産に1~2年間在籍された後、創造系不動産スクール(現在は「建築経営士コース」)の運営を10年間、全20期を担当してくれたのも、近藤さんです。創造系不動産だけでなく創造系不動産スクールも相当変わった興りであったので、近藤さんがいなければ成せなかったと思います。

近藤さんを一言で言うと「さらに大きく変化した」ということです。「人は自由に変わることができる」と言うのは私の持論ですが、近藤さんも、建築家×建築倉庫ディレクターという、唯一無二の立場を、現実のキャリアで創り上げて行ったのは、さすがです。

 

(近藤)

もともと寺田倉庫が始めた建築倉庫ミュージアムは知っていて、素晴らしい場所だと思っていました。ミュージアム運営の経験はまったくありませんでしたが、創造系不動産で長年スクール事業をしていた経験がありましたし、またいつか建築を学ぶ場所、人や文化を育んでいく場所を創りたいと思っていました。ミュージアムとの出会いはすでに建築家として独立してからでしたが、ディレクター業との兼務をお引き受けしました。

 

※2023年1月「建築と経営のあいだ研究所」のインタビューより一部抜粋と加筆修正。聞き手/プログラムファシリテーター・シブヤタカアキ氏

※近藤以久恵氏経歴 https://www.aidaken.com/author/ikuekondo/ 「建築と経営のあいだ研究所」サイトより

※近藤以久恵氏がディレクターを勤める WHAT MUSEUM のWebサイト https://what.warehouseofart.org/、建築倉庫Webサイトhttps://archi-depot.com/