東京・杉並区にある「今川のシェアハウス」は、建築家・遠藤楽が1975年に設計した名作住宅を転用したシェアハウス。

勝亦丸山建築計画がオーナーから一棟を借り上げ、改修設計から運営までを手掛けています。創造系不動産は2019年の改修時に、リーシングと企画・プロデュースおよび賃貸借契約、賃貸管理を担いました。

 

ことの始まりは、オーナー家族から創造系不動産への相談でした。

「空き家になってしまったが、愛着と思い入れのある家を残したい。しかし一家族だけで維持するのは難しい。どうしたら良いか?」

この住宅を設計した遠藤楽は、近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトに学んだ最後の日本人建築家といわれています。父の遠藤新も、ライトの右腕と呼ばれた著名な建築家でした。この住宅は、遠藤楽が47歳のときの作品で、この家族の主と友人だった縁から、その自宅の設計を任されたそうです。

 

遠藤楽が家族が集まる場として設計したのが、吹き抜けをもつ大きなリビングルームです。中心には暖炉、その前にはオリジナルデザインのソファ。外塀の笠木にも使われている大谷石は、ダイニングへのステップにも用いられ、屋外のような開放感のある空間です。

 

1975年に家族4人がこの家に住み始め、約40年間を過ごしました。時間が経つなかで子どもたちは成長して独り立ちするなど、家族は形を変えていき、2018年には住まい手のいない空き家となったのです。

建物を維持するには、メンテナンスや固定資産税などの負担が大きく、オーナーは売却も検討したそうです。しかし、築年数の経った建物の資産価値は低く見積もられ、更地にして手放す方針には踏み切れないでいました。愛着ある建物を残すか否か、家族内でもいろいろな意見があるなか、創造系不動産に相談がありました。

 

2019年の初めに話を受けた創造系不動産は、状況をこう捉えました。

「広く開放的なリビングをもち、自然素材がふんだんに使われた建築家の作品は、今後つくろうと思ってもつくれない。きちんとメンテナンスして維持していけば、価値は下がらないだろう。この大きな規模の住宅は一家族で住むには持て余すだろうが、複数人でシェアして住まうなら有効なのではないか」

 

そこでシェアハウスとして活用する道を視野に入れ、勝亦丸山建築計画に参画を打診しました。勝亦丸山建築計画は、事業面の提案も含めて設計を行う新しいタイプの建築設計事務所で、自らが事業主として運営する「西日暮里のシェアハウス」という実績もあり、事業としての提案を期待して声をかけたのです。

 

オーナーとの最初の打ち合わせで、勝亦丸山建築計画は、自分たちが一棟丸ごと借り上げて、シェアハウスとして改修・運営する「サブリース」モデルを提案しました。改修費用を設計事務所が負担し、入居者と直接定期借家契約を結んで賃料収入を得る。そして、オーナーと設計事務所間でも定期借家契約に基づき、リース代を支払う仕組みです。

このモデルのメリットは、オーナーに初期投資が不要であること。賃料収入から固定資産税などをまかなうことができる一方、デメリットは自ら運営する場合より賃料が低くなることです。さらに建物本体の修繕費はオーナーが負担する必要がありました。そこで創造系不動産は、賃料の一部を「修繕積立金」として毎月積み立てる方法を提案しました。これによりオーナーの将来への不安は軽減され、建物を残してシェアハウスにするという決断に至りました。

 

勝亦丸山建築計画による改修設計は、既存建築へのリスペクトを背景に、なるべく既存の建築が持つ雰囲気をそのまま活かす方針が取られました。

居室を間仕切り壁で二つに分ける、避難経路確保のため2階バルコニーに直接出られるホールを設けるなど、専用住宅から寄宿舎に用途変更し、シェアハウスとして快適に過ごせる空間とするための最小限の改修がなされました。

2019年6月に建築基準法が改正され、建物の用途変更において、申請が免除される面積が元々の100㎡以内から200㎡以内に緩和が拡充されたことも実現を後押ししました。

 

こうして新たなスタートを切った「今川のシェアハウス」は6年目を迎え、5名の入居者がシェアして暮らしています。この建築自体に魅力を感じて入居を希望する人も少ないと言います。

コロナ禍では住人の多くが在宅ワークとなりましたが、小さな居場所がたくさんある空間で、思い思いに居場所を見つけ、過ごしていたそうです。現在は、庭で住人同士やオーナーが参加するバーベキューが開かれるなど、シェアする暮らしを楽しんでいる様子がうかがえます。

 

日常の管理運営は勝亦丸山建築計画が担っており、現在、創造系不動産はオーナーと顧問契約を結び、継続的にサポートする体制を取っています。

 

名作住宅とはいえ、現代の感覚では、大きすぎるように感じる一軒家。しかし、大きな気積のリビングや暖炉を囲む空間は、シェアリングコミュニティという時代の価値観と重なりました。15年前だったら「シェアハウスには不向き」と判断したかもしれないし、15年後なら再び戸建てとして借りる人がいたかもしれません。

 

時代の気運があったからこそ、シェアハウスという形式がぴったりマッチしたプロジェクトです。

  • 住所:東京都杉並区今川
  • 構造規模:木造 地上2階建て
  • 主要用途:寄宿舎
  • 敷地面積:174.21㎡
  • 建築面積:88.04㎡
  • 延床面積:134.1 ㎡ (1階/81.68 ㎡ 2階/52.43 ㎡)
  • 改修設計・監理:勝亦丸山建築計画
  • 不動産コンサルティング:創造系不動産 高橋寿太郎 佐竹雄太(元メンバー) 本山哲也(元メンバー) 藤谷幹(元メンバー)
  • 竣工(改修):2019年10月
  • 写真:千葉正人
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  • 記事編集協力/玉木裕希