山田紗子建築設計事務所の設計による、丘陵地をひな壇上に造成した住宅地の1区画に立つ新築住宅です。
建て主は元々、江東区に立つ分譲マンションの一室を所有していました。
創造系不動産は、その物件を売却して新たな土地と建物を購入できるよう金融機関との調整を行い、ファイナンスの段階からサポートを行いました。
ご実家に近いエリアに住むことを希望されており、創造系不動産でいくつか土地を探して提案する中、この土地を購入することになりました。
1960年代にひな壇上に造成された丘陵地の中腹に位置し、多摩川や立川エリアを一望できる敷地です。
南側には前面道路が通り、その道路沿いに沿って東西方向に住宅が並びます。一方、北側は隣地との高低差が4mあり、視線が抜けて開放感がありました。
このように既存擁壁がある土地の場合、その擁壁が確認申請がなされているかを土地購入の前に確認することが必要です。
確認申請が済んでいない場合、やりかえなければならないケースが多く、費用がかかります。
そのため、土地を見に行く段階で現状確認し、役所に検査済証書が提出されているかどうかを確認し、やりかえが必要かどうかを事前協議します。
この敷地は行政機関で検査済証書を確認することができ、既存擁壁を生かして設計を進めることになりました。
設計を担当した山田紗子建築設計事務所の権業裕太さんはこの敷地について、「南側は一日を通して豊かな日照が期待でき、北側は隣家の影響を受けることなく、遠景の眺望を楽しめる点が大きな魅力だと感じました」と振り返ります。
そこで、ほぼ正方形の敷地に対し、細長く高いワークスペース、北側の低いダイニング、中央の水回りスペースというそれぞれに独立したボリュームを組み合わせて配置。
「これにより、北側と南側に異なる性質を持つ外を生み出し、それぞれと室内が多様な開口部を介して関係を持つよう計画しています」(権業さん)。
既存擁壁との関係で工夫した点については、「擁壁によって前面の道路と隣地との間に高低差が生じており、敷地の輪郭が明確になっていました。そうしたはっきりとした敷地の形を生かし、建築の配置やボリュームの操作で部屋のようなスケールを持った外空間をつくっています。これは、既存擁壁との関係性から生まれた空間のあり方だと捉えています」(権業さん)。
環境の特性や魅力を読み解き、外と中の居場所が関係し合う住まいが生まれました。
以下、建築家の山田紗子さんによるテキストです。
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家は小さな世界の集まりでできている。そこには、細々とした、くせのある、説明のつかない、愛嬌のある、そしてとりとめのない世界がぎゅうぎゅうと詰め込まれている。多くの場合、それぞれの世界は壁という輪郭の中に存る。だから隣の部屋で今何が起こっているのかは誰にもわからない。一つ屋根の下、たいていはばらばらの世界を同時に体験することはなく、それらがただひっそりと壁の中で息をひそめているだけだ。一度に体験できる世界はただ一つ。だから誰も世界がばらばらであることに気づかない。
この家では、ばらばらの世界が一処に存在する。ただし、大きな続き間に各要素が混在するのではなく、用途や趣向によって設えられた各室が、混ざることなく隣り合っている。丁寧に使い込まれた食器が棚板に並ぶキッチンを舞台に、父親はコーヒーを注ぐ。それを横目に、白色タイルが煌めくバスルームでは子供が鼻歌を歌いながら鏡を覗き込む。書棚とワークテーブルが伸びる細長い書斎では母親が締め切り前の作業に追われ、北側の街並みに大きく開かれたテラスではもう一人の子供が友達と遊んでいる。それらは互いを区切る壁がないままに、不完全なアウトラインを保ちながら、パラレルに存在する。まるで書割でつくられた舞台セットのように、閉じ切らない場が向かい合い、その間に微かなずれを伴って一つの家をつくる。ばらばらの世界が同時に動いているということ。そのようなリアルを感じながら、世界と世界の間をワープするように行き来する。そんな生活に可能性を感じている。
〈山田紗子〉
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- 住所:東京都日野市
- 主要用途:専用住宅
- 敷地面積:185.52㎡
- 建築面積:56.72㎡
- 延床面積:92.97㎡
- 構造規模:木造 2階建て
- 設計・監理:山田紗子建築設計事務所
- 不動産コンサルティング:創造系不動産 井上遼介 本山 哲也(元所員) 佐竹雄太(元所員)
- 竣工年月:2023年3月
- 写真:Yukasa Narisada
- 記事編集協力/玉木裕希