awn/江島史華さんによる横浜市の戸建住宅の新築プロジェクトです。

土地の面積には、いくつかの種類があります。例えば、不動産の取引では、登記簿に記載されている「公募面積」や現地を測量して得られる「実測面積」が使われます。不動産広告では、それらの面積が売買の対象面積として表示されていますが、その面積の中には、建物を建てることが難しい斜面部分や路地状部分が含まれていることがあります。
不動産の市場では一般的に、建物を建てることのできる「建築可能範囲」を考慮して価格が設定されるため、上記のような、建築が難しい部分が含まれる土地は、相場よりも価格が低くなる傾向にあります。一方、それらの部分は、物理的には建築をすることが難しいものの、建築基準法上の容積率や建蔽率の算定の基礎となる「敷地面積」には含めることができます。
このケーススタディは、不動産市場における「建築可能範囲」と建築基準法上の「敷地面積」のギャップを活用した事例です。

検討に挙がったのは、ひな壇状に造成された旧分譲地内の土地でした。敷地内外の高低差が生み出す開放的な景観がこの土地の魅力でした。敷地面積は十分な大きさでしたが、擁壁が対象地内に含まれるために、建築可能範囲が小さく、建築に十分な床面積を確保することができるかどうかが課題でした。

建築家によるヴォリューム検討の中で、建築の一部を擁壁上にせり出す案が生まれました。一般的には建築可能とされない擁壁部分にまで建築範囲を広げることで、本来は活かしきれない建蔽率や容積率を使い切ることができます。また、不動産市場における建築可能範囲は小さいため、土地価格は周辺相場よりも低く、その分を建築費用に充てることができます。十分な床面積を確保しながら、豊かな眺望を得ることができる案でした。

また、旗竿地や高低差のある土地では、建物の建ち方だけでなく、資材の搬入や重機の乗り入れができるのか等、施工性の面からも慎重な検討が必要です。土地の見学時から五十嵐惣一工務店の五十嵐新一さんと施工上の懸念点を洗い出し、計画に組み込んでいます。

以下建築家のテキストとURLです。

https://archws.com/architecture/1903/

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地域域固有の地形

横浜の丘陵地に計画した木造の専用住宅である。

台地から川まで続く里山林を切り盛りした集落からはじまったこの地域は、1950年代の開発により急速に宅地化が進み、切り分けられた個々の敷地が周辺地盤との高低差を解消する擁壁を持つ。駅から住宅街に向かうと様々な勾配の曲道が連続し、擁壁の風景が連なる。地形を体感しながら生活が営まれている。

 

施主、不動産、施工者、設計者が土地探しの段階から参加したプロジェクトであったが、擁壁を持つ敷地は敷地面積と有効宅地面積にギャップが生じるため、不動産評価が抑えられている。選んだ敷地は、法的には南東面が接道した旗竿敷地であるが、北面の17mの間口いっぱいに高さ2~3mの擁壁を介して道路に面する敷地である。北側道路の反対側には小学校、更に奥には免許センターと、川に向かって次々に5m程度のひな壇状に下がった地形となっている。地域固有の地形をダイレクトに感じ取ることができる敷地を魅力的に感じた。

敷地特性から立ち上がる架構/街に対する構え

住宅としての機能や要望を落とし込む前に、敷地特性から呼び起される軸組の検討からはじめた。建蔽率などの法条件をクリアしつつ構造やコスト、施工に対して合理性を持ち、身体スケールに応答する架構として、敷地いっぱいに1.5間(2730)モジュールの木架構を探し出した。

この架構は隣地境界の形状に従って切断されるが、その不整形な外壁面を耐力壁として固めることで、内部空間は間仕切り壁から解放され架構が浮かび上がる。グリッドに倣いながら建具や家具で空間をしつらえることで、住人の生活様式や家族形態の変化に柔軟に対応できる可変性を用意している。

 

擁壁から道路境界線まで大きくはね出した木架構は、道路からは軒下空間のように、リビングからは室内の延長のように感じられる。それは、街と住宅との厚みのある境界である。

テラスの先端の可動スクリーン、リビングとテラスの間の引き戸の操作で、外部との関係を調整する。現在は限定的だが、将来的にすべてのスパンにテラスを増築できるよう、連結可能な手摺や下地のディテールを検討している。

1日、1年、数年、数十年の時間軸の中で、街に対する様相は変化し続ける。専用住宅という閉じられた用途でありながら、街と向き合うような構えを作ることが出来ないかと考えた。

(江島史華)

所在地  神奈川県横浜市
用途   個人住宅
敷地面積 138.1m2
建築面積 65.56m2
延床面積 107.2m2
階数   地上2階
構造   木造
竣工   2023年12月
掲載   住宅特集2024年3月号
新建築.online
日経アーキテクチュア 2024年4月11日号
渡辺篤史の建もの探訪 2024年10月26日放送
渡辺篤史の建もの探訪

  • 建築:awn / 江島史華
  • 構造:東京藝術大学/金田充弘+TECTONICA/鈴木芳典 鶴田翔
  • 施工:五十嵐惣一工務店/五十嵐新一
  • 写真:DAICI ANO
  • 不動産コンサルティング:創造系不動産/山岸亮太