東京都中野区白鷺に建つ、築53年になるRC造6階建て、旧耐震マンションのリノベーションです。

旧耐震だからこその価値を、建築と不動産のあいだの考え方で読み解きました。

建築家自身が、家族と住むための家づくりを進めていました。
創造系不動産はライフプラン、ファイナンスプランからサポートし、希望や条件を整理していきました。

ある日見つけたのは、中野区白鷺の第一種低層住居専用地域に建つ6階建てのマンション。これがとてもユニークな魅力を持つ物件でした。

第一種低層住居専用地域は住環境に重きをおいた用途地域で、現行法では建物の高さが10mまたは12mに制限されています。このマンションの周辺に立ち並ぶ建物も、1、2層の住宅がほとんど。しかし、旧耐震の時代は高さ制限がなかったため、当時はこの場所に6階建てのマンションを建てることができたのです。

それが建て替えがされず残っているため、戸建て住宅が立ち並ぶゆったりした住環境に、大きな敷地と豊かな緑がある6階建てのマンションが現在残っている状況でした。

購入したのは2階の区画で、北側には庭に立つ大きなヒマラヤスギや桜の木が、南にも桜並木が見えます。
調べてみるとこの立派なヒマラヤスギは、マンションが建つ前、ここに修道院が立っていた時代に植えられたものでした。

こうした周辺環境の豊かさは、間取り図や築年数だけの不動産情報では分かりません。

不動産探しの段階で古いマンションにしかない魅力を読み取り、そのポテンシャルを生かす設計をすることが建築の可能性を広げていくことにつながります。

 

建築家は豊かな外部環境を生かすよう、桜並木に面する南側にメインのリビングダイニングを配置。中庭のヒマラヤスギや桜の木に面する北側には、子ども部屋と書斎を配置しました。

以下、建築家によるテキストです。


東京都中野区白鷺の住戸改修プロジェクト。
築53年の中古マンションを購入しリノベーションした。

マンション全体を樹木が取り囲む「森」のような環境。
南側と北側に植樹された桜の木は、四季ごとに見事に表情を変える。

旧公団でかつて大量に採用された「階段室型」である当マンションは、片廊下型マンションと異なり、北側居室を開放感を持たせながら配置することが可能となる。

内見の際、不動産の持つポテンシャルを目の当たりにして、胸が高鳴ったのを覚えている。
窓を開け四季折々の桜の木を望み、住戸の中を心地良い風が通り抜けるリノベーションを目指した。

物件の制約上、水まわりの位置を大きく変更することが不可能だったので、その制約を逆手に取り、今回のリノベーションでは「現代のニーズに合わせて各室の大きさをリサイズする」というシンプルな手法を取っている。

またキッチンや洗面所を拡張し動線の一部に組み込むことで、動線でありながら廊下とは異なる「風の通り道」となるようにも設計した。

住戸内だけで完結するのではなく、外部環境からもプランが自然と導かれたリノベーション。
桜の移り変わりとともに、私たちの生活も少しずつ変わっていく。

創造系不動産との協働により、不動産のポテンシャルを適切に読み解き、形に落とし込むことができたプロジェクトとなった。〈大槻匠〉

 

  • 住所:東京都中野区白鷺
  • 主要用途:専用住宅(区分)
  • 専有面積:78.76㎡
  • 構造規模:RC造 6階建て2階部分
  • 設計・監理:大槻匠
  • 不動産コンサルティング:創造系不動産 川原聡史
  • 竣工:2023年10月
  • 写真:中村絵
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  • 記事編集協力:玉木裕希