これは、2019年に高橋寿太郎がnoteにアップした投稿を加筆修正しました。建築と不動産の垣根を超えた先駆者はこれまでにもいる。しかし時代背景とともに、それらのビジネスモデルの解説から、違いを論じています。特に創造系不動産は「第三世代」に当たるとし、さらに未来に向けた方向性を示唆しています。(図は、取材協力した日経アーキテクチュア2017年9月28日号を抜粋。創造系不動産の、VFRDCMと、その分断をイラストにしていただきました)

◆賃貸管理業からはじまった第1世代

建築×不動産のムーブメントは、最近始まったものではありません。私の分類では、建築と不動産を融合させようとした第1世代は、タカギプランニングオフィスさんや、リネアさん達が創業された1990年代後半にさかのぼります。

 

建築家の北山恒さんや谷内田章夫さんをはじめ、多数の有名建築家とのコラボで、賃貸集合住宅を作り続けました。団塊の建築家世代には、絶大な信頼感と知名度がある不動産会社だと思います。デザイナーズマンションと呼ばれるカルチャーの先駆けにもなりました。

ここでの大事な視点は、不動産業と言っても範囲は広いのですが、第1世代はまず「賃貸管理」というジャンルから、建築家へのアプローチから始まった、という点ですかね。タカギプランニングオフィスさんは、出来上がった賃貸マンションの「賃貸管理業務(家賃集金や掃除など)」を生業にするビジネスモデルです。

◆第2世代は不動産賃貸仲介から

建築×不動産の第2世代はおなじみ、R不動産さんや、ブルースタジオさんです。2000年代に台頭する彼らは、これまでの不動産のイメージをガラっと変えました。

  

R不動産は、当時はまだ画一的だった不動産ポータルサイト、すなわち物件探しのWEBページの“価値観”を一新し、見てるだけでもなんだか楽しいメディアとして登場します。そしてブルースタジオは、建築設計側から不動産のエッセンスを取り込み、独自の方法でユーザーグループを獲得し、リーシング(賃貸募集)を展開します。そして今では定番となった「リノベーション」を牽引します。

やはりポイントは、不動産のどこに新風を巻き起こしたか。これは「賃貸仲介」のジャンルだったと言えます。賃貸管理→賃貸仲介へ建築×不動産の動きを押し広げます。

この第2世代の時代には、建築×賃貸仲介に限らず、日本のホームインスペクション(不動産売買時の住宅診断)の基礎を作ったさくら事務所さんや、内山博文さんが経営していた不動産開発のリビタさんなどの会社があります。彼らは建築×不動産の双方から、さまざまな試行錯誤と実践を行います。「建築や不動産の業界側の枠組みはとっぱらおう!」。創造系不動産が創業する2011年のすこし前、彼らがそう話していたことを、私ははっきり聞いています。

そして現在では、建築×賃貸仲介のジャンルで、彼らを追従する会社やビジネスは急増し、従来型の不動産仲介業も入り乱れての、激戦の時代に突入しています。

◆不動産売買仲介の第3世代へ

そしてようやく、不動産のなかでも泥臭く残っていた分野「売買仲介」と、建築のコラボが10年代に模索されました。要するに、土地や建物を売りたい人と買いたい人を仲介するビジネスモデルに果敢に切り込む。ここでの分類では、これを第3世代と呼んでいます。

首都圏ならわたしたち創造系不動産や、全国にスケールする企業ならリノべる、そして関西では建築家達が役員のユニークな建築家不動産。ほかにもまだまだありますが 、この3社の特徴は、1社で建築+不動産をする、単純なワンストップサービスではなく、建築と不動産の垣根を超えてコラボレーションすることで、顧客提供価値を創るというスタートラインに立っているところだと思います。

 

創造系不動産は建築家と不動産コンサルが、タッグを組んで貢献し、顧客提供価値を最大化する。リノべるは建築側から不動産仲介会社と提携し、マンションの売買仲介とリノベに特化したワンストップ型を作り、全国で多数の実績がある。建築家不動産は建築家たちが自ら不動産サービスを提供できる枠組みを作る。

 経営論にはイノベーションという概念がありますが、製品やサービス、またはそれを支えるオペレーションについてのイノベーションより、ビジネスモデルや業界構造といった、そもそもの「ルールの刷新」に関するイノベーションのほうが、模倣困難性が高い。要するになかなかマネできなくて価値が高いと言われます。顧客にとってより良い建築を作るための、このルールの刷新を考えた、賃貸管理→賃貸仲介→売買仲介へと移り変わる、建築×不動産の3世代でした。

 加えて、2010年代に第三世代が起こった理由としては、やはり2008年の、世界同時不況からのリーマンショックが大きかったと思います。建築業界と不動産業界の全体が不況になることで、ゼロから価値提供の模索が必然的に行われ、ゲームチェンジが起こった、そう言えると思います。

◆建築×不動産の第4世代は?

 そしてこの建築×不動産の分野は、私たちよりひとまわり若い、ここまで紹介した会社から独立し、起業する、ミレニアル世代のプレイヤーたちの活躍によって完成する、と思っています。

 第4世代の不動産の主戦場は、「不動産コンサルティング」です! 不動産コンサルティングというのは、建築や不動産やお金のスキルを混ぜ合わせる、総合格闘技のような分野です。どうやれば、建築の所有者と、住民やテナントと、地域や社会に貢献できる枠組みができるのかの試行錯誤。

もちろん第4世代を担うのは、若いみなさんだけでなく、いまや、R不動産や創造系不動産はじめ、すべての世代の建築×不動産のチャレンジャーたちが、この不動産コンサルティング時代に突入しています。

ここはまだまだ、決まった方法が確立していないフロンティアです。不動産の企画やマーケティング、キャッシュフローやファイナンス、コンテンツ開発、そしてやはり建築やデザイン!

そんな視点からは、今後もシェアハウスやシェアオフィスはどう発展していくのか、居住するという概念は変わるのか、宿泊体験はどう進化していくのか、働く場所はどうあるべきか、地方の空き家問題は解決できるのか。これらを建築×不動産の文脈でどう位置づけられるか、興味津々です。