アソトシヒロデザインオフィスの設計監理による木造の新築住宅です。

この住宅が建つ東京都江東区平野エリアは、清澄白河や門前仲町といった人気の街に位置しながら、一本路地に入れば住宅地としての静けさがあり、商業・文化エリアとしてのポテンシャルが同時に存在しています。

本計画地は、袋小路の奥に位置しています。一般的な不動産評価では、視認性や動線の弱さからネガティブに捉えられがちな立地条件ですが、騒音や通過交通から切り離された環境は、居住用途においては価値を持ちます。建主と建築家は土地探しの段階から、通過交通や騒音から切り離された環境に着目し、都市の中で静かに暮らせる場所としてその価値を見出していました。

この敷地条件に対し、本計画では住宅と街との関係性を閉じて守るのではなく、広く開くアプローチが取られました。

特に1階は、住宅としての専有性を保ちつつも、土間空間や段差を伴う構成は、居住・半公共・小規模な商的利用といった複数の可能性を受け止める構成となっています。将来的には用途転換が可能な空間構成で、住居に固定されない柔軟性を持ちます。

建物はスキップフロア状の3階建てで構成されています。限られた敷地面積の中で、単純に床面積を積み上げるのではなく、各階を隔てる壁を取り払うことで、異なる役割をもつ空間を緩やかにつなげています。

街との距離感、用途の可変性、時間の経過に伴う使われ方の変化までを織り込んだ計画となりました。

 

―――以下、建築家のテキストです。―――

土間と段床

この建築は東京都江東区平野に建つ住宅である。平野は清澄白河から深川、門前仲町へ向かう途中に位置し、美術館や庭園、カフェやショップ、寺院など多様な建物が点在していることにより、散策でにぎわう街となっている。敷地は散策路から少し離れた袋路の奥にあり、暮らすには静かで良好な環境だが、人の気配は減り、閉じた印象であった。
この地域の背景を調べると、江戸時代の埋め立てから生じた町屋と、海運の良さにより、地方各地から運ばれる物流の拠点として栄え、1階を街に開いた店舗、上階を住居とした蔵屋敷や見世蔵が建ち並び、今と変わらずにぎわう街であったようである。

敷地と要望から住宅の規模は、都市的なフットプリントの小さい3階建てとなる。このような地に建つ住宅はどうあるべきか。これからこの地に建つ住宅と、ここに暮らすクライアントの長い時間を思うと、1階は街に開くことができ、上階は暮らしを支える場とした現代の見世蔵のような、そしてこの地の足跡を継承するような在り方がふさわしいのではないかと考えた。

1階の袋路側は土間を設け、広く街へ開くことができるものとした。土間は近隣住人や友人が集う場、子どもの遊び場、工作場やガレージ、そして将来は見世蔵のように街に開いたギャラリーやショップなどに転用することができる懐の広いものとした。それは住宅が他者に対し完全に閉じるのではなく、他者に開き、関わりながら暮らすことで、この袋路に少しの動きを与える。
1階の一部と2階、3階、屋上階へと上に積まれる暮らしを支える場は、水平な床を単純に重ね、各階を分け隔てたものとはせずに、暮らしの場のそれぞれを構造壁が枠取ることにより緩やかに分け、さらにその場に合せた広さや床高さ、天井高さをもつ段床が伸びやかに連なるものとした。そして平面中央の階段が、1階の土間を含めてひとつに紡ぐ。それは蔵にある多種多様な品々が、その大きさや性質に分けられ、連なり、見渡すことができるように、3階建てという上に積まれた都市的な暮らしに分節と連関、統合を与え、光と風の流れ、家族の居場所とその気配、空間の奥行きとつながりなど、様々な関係性を豊かに広げる。
建築の外形は勾配屋根をもつイエ型とはせずに、シンプルな整形立方体のハコ型とした。それは多様な建物が点在するこの地において、そして現代の見世蔵として、一見してプライバシー性の高い戸建て住宅であることを認識し難くするとともに、将来、ギャラリーやショップに転用した時の姿として相応しいと考えたからである。

この平野という地に住宅を計画すること、そしてこの地に長く暮らすこと。その一つの答えを「土間と段床」で示せていたらうれしい。

 

 

  • 住所:東京都江東区
  • 主要用途:一戸建ての住宅
  • 敷地面積:63.66㎡
  • 建築面積:44.54㎡
  • 延床面積:128.13㎡
  • 構造規模:木造 地上3階建
  • 設計・監理:アソトシヒロデザインオフィス
  • 構造設計:長坂設計工舎
  • 施工:志村工務店
  • 家具:ハイヒュッテ(ダイニングテーブル/ソファ)
  • 写真:松井進
  • 不動産コンサルティング:創造系不動産 山中 井上遼介
  • 竣工年月:2024年9月
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