創建当時の三岸アトリエ(撮影者不明)
これは、東京都中野区に現存する国登録有形文化財「三岸家住宅アトリエ」の保存・再生・活用を目指す、プロジェクトです。建築家・山脇巌によって1934年に設計されたこのアトリエは、バウハウスの流れをくむ木造二階建ての近代建築です。洋画家・三岸好太郎と三岸節子の夫妻のために建てられ、戦前から90年にわたって地域の人々に親しまれてきた、稀有な歴史的建造物です。
建物には、1950年代後半に三岸節子が増築した部分も含まれています。フランスの田舎を思わせる応接室と中庭を設けたこの増築によって、当初「バウハウス建築」の象徴でもあった特徴的な「コーナーウィンドウ」の姿は失われました。
現在の三岸アトリエ
けれどもいま、地域の人々が愛着を寄せているのは、当初の意匠ではなく、こうした時間の積み重ねを宿した、現在の空間そのものです。
三岸節子の孫にあたる所有者は、祖母・節子と母の意思を受け継ぎ、老朽化が進む建物の行く末を模索し続けてきました。
2024年にこの建物を引き継いだのが、耐震補強工事を専門とする「株式会社キーマン」です。承継は、名住宅の保存に取り組む「一般社団法人住宅遺産トラスト」や、空き家売買のプラットフォーム「家いちば」などの協力があって実現しました。
創造系不動産の本プロジェクトでの役割は、建築と不動産の両面を俯瞰しながら、必要なプレイヤーを適材適所につなぐことでした。プレイヤーの候補を提示した結果、事業主は、再生事業を担う建築家として、歴史的建造物の継承を専門に掲げる「建築継承研究所」の樋口智久さんを抜擢。隣接する集合住宅「カーサビアンカ」のリノベーションを担う山野井靖さん、歴史的価値を客観的に見定める歴史家・印牧岳彦さんも加わり、複合的なチームが組まれました。
三岸アトリエの内観©高野エリカ
このプロジェクトの核心にある問いは、この建物を未来へどう残し、活かしていくか。失われた「コーナーウィンドウ」を復活させるのか、それとも長年受け継がれてきた現在の姿をそのまま活かすのか——これは、その問いに直結する大きな分かれ道です。どちらを選ぶかで、外観も、再生コストも、社会へ向けたメッセージも大きく変わります。
古さには、確かに価値があります。ただし、それをただ残すのではなく、どう使われるのか、どう経済的に成り立たせるのか。そうした観点から積極的に構想し、試み、そしてその新しい使い方や成功プロセスの良し悪し自体を、社会が寛容に受け入れていく。そうした過程もまた、文化を築いていく営みであり、建物を保存することと同じくらい重要だと考えています。
歴史を引き継ぎながら未来へ進むプロジェクトが進んでいます。
プロジェクト進行中・・・・・
- 住所:東京都中野区
- 事業主:株式会社キーマン
- 設計(創建当初):山脇巌
- 改修設計・監理:株式会社建築継承研究所/樋口智久
- 隣集合住宅(カーサビアンカ)改修設計:株式会社山野井靖建築事務所/山野井靖
- 継承協力:一般社団法人住宅遺産トラスト・家いちば
- プロデュース:創造系不動産/高橋寿太郎・小池智之