組織設計に勤めながら社内外で活動される荻野航さんとそのご家族が住むための、マンションリノベーションのプロジェクトです。
マンションリノベーションは、設計が始まる前の「物件選び」の段階で、すでに大きく方向づけられています。荻野さんと私たちが物件探しの結果たどり着いたのは、不動駅前近くの、築約45年の分譲マンションでした。築年数だけを見ると、耐震性や設備更新の状況、管理体制など、確認すべきポイントも多くあります。また、間取りについても、和室中心で細かく仕切られているため、使いづらいのではないかという印象を持たれがちです。
しかし本プロジェクトでは、単に「古い」という評価ではなく、「どのような空間的特性を持っているか」という視点から物件を読み解いていきました。築年数はあくまで一つの事実にすぎません。重要なのは、その空間がどのような可能性をもっているかです。
特に注目したのは、開口部のあり方でした。1970年代の住戸は、和室主体で床に座る生活を前提に設計されていることが多く、窓の位置が低く取られている傾向があります。現代の腰よりも高い位置の窓が中心の住戸と比べると、視線が低い位置で外へ抜けるため、実際の広さ以上に開放感を感じられました。間仕切りを整理することで床面の連続性が強調され、光と視線が伸びやかに広がります。築古ならではの仕様が、むしろ豊かな空間体験につながるのです。
もう一つのポイントは、「田の字型」と呼ばれる平面構成です。住戸の玄関付近に水回りが集まり、その周囲に居室が配置される構成は、廊下が少なく、面積のわりに有効に使える特徴があります。襖で仕切られた連続和室は、一見すると昔ながらの形式ですが、間仕切りを取り払えば一体的な空間へと再編集しやすい骨格を持っています。また、水回りがまとまっていることで、レイアウト変更の合理性も高まります。古い形式の中に、理にかなった構造が備わっていました。
その物件が持つ空間の特性を丁寧に読み取り、そこから最適な住まいのかたちを導き出すことは、建築家との家づくりの醍醐味です。低くて大きな開口、かつての田の字型構成から生まれる空間の一体性。これらは制約ではなく、設計の出発点となりました。
リノベーションで実現する家づくりは、もともとの物件の価格面だけで評価されるものではありません。空間の骨格を理解し、その可能性を引き出すことで、時間を経た躯体は新しい暮らしの舞台へと生まれ変わります。不動産選びは設計につながる非常に重要なプロセスです。
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以下建築家によるテキストです
仕切るという行為を再考する
コストと立地を加味した結果、決して潤沢とは言い難い専有面積での選択となった。
従前のプランは田の字形式。廊下という非居室を無くし、最大限に居室空間を確保する形式である。その一方、元々大きくもない専有部をさらに4室に分割する為、個々の部屋は非常に小さい。その上、風呂トイレは田の字以外で確保しなければならない。
分割された部屋は間仕切により互いに断絶された状態であり、廊下がない故に移動時は他の部屋を強制的に経由しなければならない。
新たなプランではそんな一長一短のある田の字型を原型としながら、その壁を少し切るという形式を取った。
戸境の壁とは独立した十字状の壁で仕切られた空間は、十字の壁がそれぞれの室を担保しながら、外周沿いを経由してロの字に移動ができる。室間の視線は適度に遮られつつ、完全に区切らないため各室は緩くつながり自然光も導く。またロの字ゆえに動線に選択性が生まれ、ある部屋を迂回して他の部屋にアプローチすることが可能で、これにより部屋の1つを浴室に出来、本来押し込められる場が豊かな空間に変わった。
さらに十字壁の一部を移動式の大きな棚とすることで、壁として振る舞いつつ仕切る領域に変化が生まれる。これにより先々変化するであろう生活スタイルにも追従できるものとした。
田の字プランという効率性を引き継ぎながら、完全に仕切らない仕切りが小さな部屋に豊かさをもたらした。
30代、共働き、個々の生活リズムは尊重したい。コスト的に都内では大きな専有部を選択できないが広さを感じたい。この声は決して私たちだけの特別なものではないはずである。
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- 住所:東京都品川区
- 構造規模:鉄筋コンクリート造7階建ての4階部分
- 専有面積:53.70㎡
- 設計・監理:荻野航
- 設備設計:大浦理路
- 撮影:土屋光司
- 不動産コンサルティング:創造系不動産 川原聡史、田中太雄