建築家の納谷新さんによる、東京都世田谷区に建つ集合住宅のリノベーションプロジェクトです。

 

不動産探しをするなかで、ある日出会ったのは、周囲に高い建物が少なく、視界が開けていて、さらに外廊下型の角部屋という恵まれた住戸でした。

 

リノベーションでは、パイプスペースの位置などの制約から、既存の水回りの位置を大きく移動させることは一般的に難しいとされます。

 

そこで納谷さんは、水回りをひとつのまとまりとして扱い、そこに2つの大きな空間を加えた、3つの領域からなるプランへと再構築しました。間取りを大胆に変えたことで、室内には光と風が行き渡り、のびやかな開放感が生まれていました。

マンション探しでは、専有面積や駅からの距離、築年数といった数値的な条件が重視されがちです。しかし、パイプスペースの位置のように見えにくい要素が、リノベーションで大きな影響を持つことも少なくありません。建築家の視点が加わることで、そうした見えにくい制約がむしろポテンシャルへと転換され、その不動産にしかない魅力が引き出されていきます。

 

―――――以下建築家のテキストです―――――

 

築17年の都内マンションの一室を、夫婦ふたりのために改修した。

 

クライアントの要望は、化学物質の影響がない素材を選ぶこと、30年後にも古びない普遍的でシンプルな空間にすること、そして木のぬくもりや素材の肌ざわりを感じられることだった。

 

クライアントは化学物質に敏感であり、またコントラバスを演奏するため、「素材」と「音」の両面から快適な環境づくりを重視した。

 

もとの3LDKを2LDKに改め、水まわりは住戸中央にあるものの、廊下を境に左右がわずかにずれており、このズレを柔らかくつなぐように、コントラバスを思わせる曲面の木のルーバー壁を挿入した。この壁は、玄関・寝室・オープンスペース、水まわり、リビングダイニングという3つの空間を緩やかにつなぎ、演奏時には吸音の役割も果たしている。

床は空間ごとに用途や居心地に合わせて天然素材を選び、壁は漆喰で仕上げた。素材はすべてサンプル確認を経て慎重に選定し、時間とともに変化する肌触りや質感が、空間に微細な変化と豊かさをもたらす。既存のダクトによって抑えられていた天井は、ルートを整理することで高さを確保し、折り上げ天井として空間に奥行きをもたらした。素材と音が呼応する穏やかな住まいとなった。(/360°)

  • 住所:東京都世田谷区
  • 主要用途:専用住宅(区分)
  • 専有面積:79.47㎡(約24.04坪)
  • 構造規模:RC造 地下1階7階建て7階部分
  • 設計・監理:/360° 納谷新
  • 不動産コンサルティング:創造系不動産 川原聡史
  • 施工:株式会社悠和
  • 竣工:2024年3月
  • 写真:吉田誠