若原アトリエの若原一貴さんが手掛ける戸建住宅の新築プロジェクトです。

 

東京都三鷹エリアで敷地を探していたクライアントは、井の頭1丁目にある土地の購入を検討することになりました。

エリア特性とのギャップがある土地探し

クライアントが土地探しをしていたこのエリアでは、建蔽率50%以下の場合、敷地面積の最低限度が100㎡以上の敷地としなければいけないという、最低敷地面積の定めが平成16年に設定されていました。そのため、あらたに宅地分譲する場合は、100㎡以上の敷地面積が必要になります。実際、このエリアは、ファミリー層の需要があり、ゆったりした住宅が多いので、広い敷地面積が人気のエリアになります。

しかし、今回の対象地については最低敷地面積の設定以前の宅地であり、敷地面積が小さく、エリアの需要にはマッチしていないものでした。

そのような状況の中で、クライアントはエリアの需要とは異なり、比較的小さな住宅を建てることを希望していました。今回の敷地はエリアの不動産市場と外れているものの、クライアントと建築家がイメージしていた小さな住宅を建てるには十分マッチしている敷地であったと言えます。

必要な不動産が地域の需要と異なる場合、土地探しは一筋縄ではいきません。そもそも、そのような物件が少なく、またあってもなにかの条件がある場合が多いからです。意思決定のスピード感が求められる中で不動産のみならず建築の専門家2者とチームを組むことによって、リスクとコストを把握しながらポテンシャルを読み込んだ不動産探しができます。

以下、建築家のテキストです。――――――――――――――――――――――――――

緑と音楽が共鳴する住まい

計画地は井の頭公園から少し離れた武蔵野の面影が色濃く残る閑静な住宅街の中にある。敷地の西側には玉川上水に沿って設けられた緑道があり散歩やジョギングをする人々が行き交っている。ここに40代単身者男性が、周囲を気にせず好きなレコードを聴きながら豊かに暮らせる住まいを計画した。

外観は玉川上水沿いの樹々を背に日没前の一瞬、空の明るさと森の暗さの対比が生まれ闇の中にルネ・マグリットの絵画のようにひっそりと佇む小さくて可愛いらしい切り妻屋根の住まいをイメージした。内部は一階に和室(寝室)と水回りを設け、居間、食堂・台所を2階に配置。玄関は階段室と兼ねることで、コンパクトな家の中にも縦への広がりを生み出そうと考えた。また玉川上水の緑をダイナミックに取り込むよう西側に幅3mの大きな窓を設け、その窓に向かってソファを配置することで、まるで緑の奥から音楽が聞こえてくるような居場所をつくろうと考えた。階段室にも窓からの木刈が差し込み、階段室下の土間には木々の影が落ちてくる。階段室と和室の間は大きな障子で仕切られていて開け放つと敷居がベンチとなり、ここにも居場所が生まれている。

  • 住所:東京都三鷹市井の頭1丁目
  • 構造規模:木造軸組工法 地上2階建て
  • 敷地面積:76.31㎡
  • 建築面積:32.21㎡
  • 延床面積:60.27㎡
  • 設計・監理:若原アトリエ 若原一貴
  • 不動産コンサルティング:創造系不動産 川原聡史
  • 写真:中村絵