若手建築家、勝亦丸山建築計画が企画・設計・運営を手掛ける小規模なシェアハウスの計画。場所は田端駅・千駄木駅・西日暮里駅の3駅の中間に位置した住宅地の一画。そこに建っている築40年の木造2階建ての住宅を賃借し、リノベーションを加え新たな価値を創造していく。創造系不動産は物件探しから契約、賃貸システムの構築補助、管理までを建築家と二人三脚で同プロジェクトに関わっている。
CASE STUDY21西日暮里のシェアハウス

賃借か、購入か。
当初建築家から依頼を受けた際、このプロジェクトは「購入」を前提として物件探しを行っていた。その理由としては明確で、建物を「自由」にリノベーションするためである。ただ事業としてはそこに収益性が付いて回る。イニシャルコストを考えれば、賃借と購入の差は歴然であり、その差は事業の形自体の変更を必要とする事にもなるだろう。収益性からくる都市型の詰込み型シェアハウスではなく、その町の一軒家に知り合いと住みついたような関係性のシェアハウスを想定する際に徐々にその方向性は「購入」から「賃借」へと移行していった。また賃借の場合、まず前提に賃貸人(オーナー)と賃借人(ユーザー)という関係があり、そこに契約関係が存在している。その中では両者のなかで取り決めたルールの元、そこに則り事業を運営していく必要がある。つまりは、両者の考え方が一致することが出来れば賃貸であっても「自由」にリノベーションをすることが出来る可能性がある。それは物件との出会いであると同時にオーナーとの出会いと言えるだろう。このプロジェクトはそういった単なる物を越え、関係性を見据えた物件探しが求められた。

「世話焼き」と「コンサル」の間
賃貸、かつ築古の木造、そしてリノベーション、そこに若手建築家の不動産賃貸業という要素が加わり、まずこの事業計画、そして賃貸借契約から工事へと進む中で幾つもの乗り越えるべきハードルが存在していた。資金調達・設定する賃料・物件の状態・耐震性能・それぞれの責任範囲・契約期間・退去後の事、オーナーとの信頼関係の構築etc… それらを契約書という書面だけで全て文字に起こしコンサルタントとしてマネジメントしていく事は不確定要素を多分に含む関係上難しい。それはこれから先のオーナーとのユーザーのコミュニケーションの全てを想定し可視化する事と同義に思えるからである。 つまりは一般的な賃貸借契約を越えた柔軟な解釈を持つ必要性があり、時には「契約書」を「約束事」と、「コンサルタント」をご近所の「世話焼き」のように捉えなおして、より親密にマネジメントする事が大切になるだろう。そしてそれが上手く行くとき、そこには書面上に出てはこない気遣いや思いやりが重要な役割を成している。産業や政策と言った画一的な政策で生み出された大量な木造住宅ストックを生まれ変わらせるためには、画一性を排した個々人の丁寧な関係性の構築が必要不可欠なのである。専門性と親密さを併せ持った「世話焼き」と「コンサル」の間の立場が、このようなプロジェクトを広めていく 時に求められている。

DIY型賃貸という契約形態
そのような従来の契約形態では難しい状況の中で、本物件では中古住宅の流通や空き家の活用促進のため、国が普及を進めているDIY型賃貸借を取り入れた。これは「修繕等が必要な状態であるが、現状のまま貸したい」貸主と、「自由に改修したい(DIYしたい)」借主の両者のニーズを満たすことの出来る契約形態であり、従来の賃貸借契約に加え、DIY工事の詳細な取り決めに関する合意書も同時に結ぶというものである。だがまだまだ整備しきれていない部分が多く、事前に詳細なすり合わせをし、納得いく形で交渉をまとめられるように、創造系不動産が両者の橋渡しとしての役割を担った。

相互に信頼関係を築くこと
事業計画から詳細な建築・施工計画に至る流れの中で、随時オーナーへの報告と承認を得ることを心掛け、時にはオーナーからのアドバイスも取り入れながらいよいよ工事が始まった。ところがいざ解体工事が始まると、想定していなかった建物の損傷や予期せぬ天災に見舞われて、工事が中断してしまう場面もあった。通常の賃貸借契約では、建物本体の修繕はオーナー負担とするのが一般的であるが、今回採用したDIY型賃貸の性格上、どちらの工事区分かを判断するのが困難であったため、両者の理解と協力体制が必須であった。若手建築家のヴィジョンを理解してくれるオーナーと、困難な局面でも真摯に向き合いプロジェクト遂行を目指す勝亦・丸山氏、「世話焼きコンサル」としての創造系不動産が、相互に信頼関係を築きあげたことが本プロジェクトの最大のポイントとなった。

若手建築家による不動産賃貸業と多方面への波及
設計者である勝亦・丸山氏は、事業主体としてシェアハウスの運営まで行っており、本プロジェクトは今後増え続ける空き家利用のモデルケースとして位置づけられるであろう。シェアハウス内には、彼らのもう一つの活動拠点である静岡県やその他の地方からの人々も利用できるようなゲストルームや彼ら自身のサテライトのアトリエも備わっており、多拠点型生活への足がかりとなることも期待される。創造系不動産は、賃貸経営のアドバイザーとして今後もきめ細かくサポートする体制を整えていく。
シェアハウスのオープニングには、ゲストを招いてプロジェクト全体をふり返るトークセッションや、今後の展開のプレゼンテーション、また貸主も参加してのオープンなイベントが開かれ、今後も継続的に続くようである。建物の工事から竣工までの記録、また西日暮里の日常の風景などが収められた、建築ラッパー「カタチトナカミ」とのタイアップによるMVの公開という、今までに類を見ないPRも行っている。建築と不動産、さらには音楽や映像など様々なジャンルを横断した新しい協働の形として、さらなる分野への波及も期待される。




CASE STUDY
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21西日暮里のシェアハウス
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