建築家や工業デザイナーで構成されたデザインチーム「AATISMO」(海老塚啓太さん・桝永絵理子さん・中森大樹さん)が手掛け、2025年に完成した、戸建て住宅の増改築プロジェクトです。創造系不動産はこのプロジェクトにローンコンサルティングとして、資金調達面で協力しました。
このプロジェクトでは、親世帯が暮らす住宅を、子世帯と一緒に住める二世帯住宅へと改築・増築しています。一般的にこのような増改築の計画では、不動産の売買が伴わないため、不動産会社が関与する機会はほとんどありません。その結果、所有権や相続といった権利関係の整理や、資金の調達といった不動産に関わる重要な問題が、設計がある程度進んでから初めて明らかになり、思わぬ障害となるケースも少なくありません。
今回のプロジェクトでも、接道条件や土砂災害特別警戒区域の指定、増築に伴う建築確認申請など、法的な課題が資金調達に影響を及ぼすことが予想されていました。住宅ローンを取り扱う金融機関は、それぞれに審査基準やローン商品が異なり、土地や建物の状況、申込者の条件などによって対応が分かれます。
そのため、このプロジェクトでは計画の初期段階から金融機関への聞き取りや交渉を丁寧に行いました。その結果、地域の金融機関での住宅ローンが最も適しているという結論に至り、無事に資金調達を実現することができました。
チャレンジングなプロジェクトは必然、資金調達の難易度も高くなりがちです。そうしたプロジェクトでも、資金調達の可能性を建築家との連携のもとに探り、新しい建築の誕生を支えることは私たちにとって大きなやりがいのある仕事です。
以下建築家のテキストです。
①風土に根ざし、創作と生活が一体となった暮らし
日本神話に登場する土と陶芸の神「ハニヤス」の名を冠した本計画は、陶芸家の両親と、建築家である私たち夫婦のための二世帯住居兼アトリエです。
両親は50歳を過ぎて陶芸家へ転向し、15年ほど前に土と向き合い制作に没頭できる環境を求めて、鎌倉の谷戸に建つ古家へ移り住みました。敷地のある紅葉ヶ谷は、岩の庭園で知られる瑞泉寺へと続く谷戸であり、周囲には「やぐら」と呼ばれる横穴が点在する、高低差が激しく土の存在感が際立つ場所です。
崖と木々に囲まれた静謐な環境の中、土を捏ねて作品を生み出しながら生活している両親と共に暮らすことになった時、私たちが目指したのは、現代において分断されがちな「生活と創作」や「人間と土地」を再び結びつけ、この土地とこの家族だからこそ実現できる建築をつくることでした。
「ハニヤスの家」は、建築が再び物質的な力強さと、つくることと生きることの調和を取り戻すための試みです。
全員が創作に携わる家族の住まいとして、互いの気配を感じながらも自らの創作に没頭できるよう、既存母屋の四隅に「土のかまくら」と呼ぶ、地面から土の塊が隆起したような部屋を増築しました。
家族はそれぞれの洞窟のような閉じた空間で寝起きし、創作を行います。そして、母屋であった中央の「広場」へと出てきては、集い、語らい、食事を共にします。中央の共有空間を囲むように住まいが並び生活を営む姿は、古代の集落の身体感覚を現代に呼び覚まします。
②増築による構造・環境機能の補完
厳しい法規制や地形的制約から、古い建物を壊して整地することが常態化しているこの地域において、本計画は既存構造を土地に深く根差した存在として再構成します。
母屋は昭和42年に建てられた木造平屋であり、崖に囲まれた土砂災害警戒区域内に位置します。母屋の一部が特別警戒区域にかかっていたため、該当部を減築して崖からの離隔を確保しつつ、四隅に増築することで構造的な補強を行いました。
既存母屋は壁と天井を取り払い、林立する柱が屋根の荷重を受ける一室空間とました。対照的に、四隅へ増築した部屋は地面から隆起した土塊のような独立箱体として、水平力を受け止めて母屋の不足する剛性を外側から補う構造コアとし、新旧が時代を跨いで役割を分担する二層的な構造としました。
軽量な既存グリッドと重厚な土の塊が交錯することで、新築した部分の方がより古くからこの土地に存在していたかのような「時間の反転」を生み出しています。
また、環境的には、紅葉ヶ谷の中でも小高い地形を活かし、もともと無断熱だった母屋は半外部のような扱いとして開口を多くとることで、山から谷へと流れる風を効果的に導き入れ、谷戸特有の湿気を滞留させない計画を行いました。南側にある庭は既存の樹木を可能な限り温存し、落葉と茂りのリズムに寄り添うことで日差しを制御し、最小限のエネルギーで豊かな居住性を確保しています。
一方で増築部は高断熱化し、空調設備も適宜備えることで、暑さ寒さの厳しい時期には逃げ込めるシェルターとして機能させ、パッシブとアクティブを使い分ける二層的な温熱環境を整えました。
③循環する素材とジャンルを超えた創作の交流
建築を「完成された製品」として終わらせるのではなく、風土や住み手の時間と共に深みを増していく「生きた地層」にしたいと考えました。
増築部の仕上げは、この土地の土や陶芸の土などの素材に直接触れながら、その立ち現れ方を模索し、基礎工事で掘り返された土を見ると黄褐色の粘土質の塊が多く現れたので、それを砕いて父の窯で焼成したり、釉薬をかけてバーナーで炙ったりと様々な実験を繰り返し、大地の色そのものを素材にすることを試みました。
最終的に、掘り出した土や粘土、父の制作過程で出たくず土を素焼きしたもの、近隣工場から出た鉄粉や銅粉を混ぜ合わせて独自の土壁を開発しました。こうして生み出した素材に対し、陶芸の「流し掛け」技法や、金属粉を変化させて発色させる釉薬の知識を建築に転用し、大地から空へと連なるように幾層にも定着させています。錆という自然現象や多くの人の手が加わることで、建築に偶然性や時間変化を取り込み、工芸的でありながら自然物のような複雑な美しさを備える建築となることを目指しました。
陶芸家である両親から刺激を受けて生まれたこの家では、建築のみならず、両親の制作した器や私たちがデザインした照明・家具などが日々の生活の中で使われています。それらが互いの創作を日常的に刺激し合い、新たな作品を生み出すという創作の循環と交流が今も紡がれています。
- 住所:神奈川県鎌倉市
- 敷地面積:544.80㎡
- 延床面積:132.07㎡
- 設計・監理: AATISMO 海老塚啓太 桝永絵理子 中森大樹
- 不動産コンサルティング:創造系不動産 川原聡史
- 写真:Shinya Sato