大規模インフラ等の耐震補強工事を専門とする、株式会社キーマンが事業主となり、建築家・渡邉明弘さんと不動産コンサルタント・創造系不動産による、千代田区神田神保町に建つ、築50年の鉄筋コンクリート造5階建てビルを再生するプロジェクトです。

日本では一般的に、旧耐震建築物は取り壊しの上、新築されることがほとんどです。

今回事業主は、自社の耐震補強工事の技術を民間の中小規模建築へ展開するケーススタディとし、旧耐震ビル活用の先進的な事例を作ることで、経営戦略上も大きな価値をもたらすと考え、このプロジェクトを開始しました。

そうして集まった、事業主と建築家と創造系不動産(不動産コンサルタント)は、計画が白紙の段階から、築50年のビルをどのように改修し、どのような用途で活用するか、議論しながらプロジェクトを進めてきました。

議論の中で、旧耐震のビルの魅力を活かしながら、もっと多くの人がかかわり、(事業主の新規ビジネスとしても)収益を生み出す可能性のある、コーワキングスペースやシェアハウスなどの複合用途が望ましいという答えを得ました。最終的には、1階路面はハイエンド顧客層向けシェア型レストラン、2階は無人管理のコワーキングスペース、3~5階は外国人が半数というコンセプトのシェアハウス、というビル全体がシェア施設の複合体となりました。

 

「当初は、単純に飲食やオフィスのテナント貸しを想定し、利回り計算から事業規模を検討していたが、工事前のイベント開催やアンケートを含めた入念な不動産マーケティング調査の結果、このエリアにない、模倣が困難な事業形式が集まった。必ずうまく行くと約束された事業はない。だからこそ、小さく素早く(リスクを低く)スタートして試す。中小企業による小規模建物だからこそ狙える好機だと考えた。」高橋寿太郎『新建築』2023年8月号より抜粋

※金額は例です。実際と異なります。

 

また、事業主は、耐震改修工事の着工前に、貸しスペースとしてビルの1階を開放しました。着工前後にも多くの建築関係者や事業者を現地に招待することで、様々な人的ネットワークを作り、完成後の運営に繋げていく積極的な活動が行われました。

渡邉明弘さんよる建築は、既存建築の枠組みを意図的に逸脱して、新しい空間を作ろうとする、意欲的なデザインとなっています。事業主と建築家が、プロジェクトの初期段階から共に議論して、用途や使い方の細部にまで、時間をかけて練ってきたことで、このようなデザインが可能となりました。

株式会社キーマンの専門分野である耐震補強工事は、まず塔屋と受水槽という「建物への負担」を撤去することにより、室内の既存の柱補強のみというシンプルなものとしました。これにより、可能な限りスペースを活かし、既存のビルの姿を変えることなく補強を可能にしています。

1階平面図(上)3階平面図(下)

  • 住所:東京都千代田区
  • 構造規模:鉄筋コンクリート造 地上5階建て
  • 敷地面積:70.72㎡
  • 建築面積:61.20㎡
  • 延床面積:287.68㎡
  • 設計・監理:渡邉明弘建築設計事務所 渡邉明弘、オクムラデザイン 奥村雅俊
  • 電気設備設計:SOM事務所 助川聰明
  • 機械設備設計:工学院大学 野部研究室 中村北斗
  • 耐震補強工事:キーマン
  • 耐震補強構造設計:k-unit 西坂達也
  • 内外装工事:sync
  • 設備工事:高橋電気工業
  • 不動産コンサルティング:創造系不動産 高橋寿太郎 川原聡史 倉本琢