Buttondesign / 村上譲・菊田康平 設計による中野区の小さな焼き菓子店を併設した住宅です。
クライアントは、住宅以外に小さな焼き菓子店の開業や菓子作りのワークショップも行いたいという要望がありました。
建築家とクライアントは、様々な用途へ柔軟に対応ができる住宅を想定した土地探しが必要でした。

見つけた土地は駅前の商店街を抜けた先にある、旗竿地です。
入口から約10mほど入ると、約90㎡の宅地部分があります。
用途地域は第一種低層住居専用地域の建ぺい率50%、容積率150%と指定されているエリアです。
道路から離れ、有効宅地面積が広いため、平面的な面積だけでなく、建物高さを最大限活用し、住宅内部の気積を大きくすることができる場所でした。

店舗を兼ねた玄関から居間へと土間が続いています。

玄関と居間の床のレベル差は800mm。キッチン横のパントリーから、ロフトが延びています。

2階は大きな空間を障子で分けられるようになっており、間取りの変更に対応できるよう、変化に対応した設計になっています。

以下、建築家のテキストです。
駅前の商店街を抜け静かな住宅地に一歩踏み入れたところに、小さな焼き菓子店をもつ住宅を計画した。
敷地は旗竿地であるが、東側の長い一辺は駐車場に面しているため、特有の閉塞感はなく、公園に面しているような開放感があった。
しばらくは開けた環境を楽しむことができると考えたが、消えゆく公園や生産緑地のような空地と同等のものと捉え、東側は街との距離感を調整する庭とした。
長い雑木の庭を抜け、小さな店舗を通って住居に入る。家の玄関は店舗と同居させ、街との境界線を滲ませながら繋いでいる。その先で出迎える半地下の大きな土間には、漆喰壁によって包み込む穴蔵のような静濁を持たせた。大きく開け放たれた窓から庭の緑を屋内へ取り込み高低差を可視化することで、ここが地中であることを感じさせる。また、この土間には大きなキッチンを据えて家の中心に「食」があることを印象付けている。近い将来店主が調理のワークショップをすることで、この住宅の1階全体が街に開放されていく。
半地下の土間から柱で支えた2階は、がらんどうでありながら、軸組に沿った可変性をもつ間取りになっている。空地を眺める大きな窓はなく、トップライトからの光が階下まで降り注ぐ。
周囲の環境の中に素直に身を置き、家の成り立ちが内側から見えるような、出来るだけ素っ気ない家を作りたいと思った。住まい続ける中で家という形式を抜けて街に開かれ、この素っ気ない家はいかなるかたちにも変化していくだろう。

  • 所在地:東京都中野区
  • 構造規模:木造2階建
  • 敷地面積:107.47㎡(32.51坪)
  • 延床面積:99.20㎡(30.01坪)
  • 設計監理:Buttondesign
  • 施工:KICHI&Associates Inc.
  • 竣工:2019.8
  • 写真:淺川 敏
  • 不動産コンサルティング:創造系不動産 須永則明