青木弘司さん(AAOAA)設計の相模原の賃貸併用住宅計画です。
クライアントと建築家が、土地探し、家賃相場調査、キャッシャフローシミュレーションを行い、繰り返し検討しました。

建築不動産資産の価値基準は様々です。
投資としての資産と、住空間としての資産の在り方を考えた時に、時間軸を越えた建築ならではの中長期的な運用の可能性が想定できます。

クライアントにとって、賃貸住宅として収入を得ることや、将来的に自ら使用すること、次の世代が活用できるような空間を設けておくこと等の、多様な可能性を考えられる空間を所有できることが、高い資産性を備えた不動産を所有することと同義でした。
「居住性」「転用性」「事業性」等の可能性を考えながら、土地探しをしました。

計画地は相模原の旗竿地。この地域は建蔽率の制限が厳しいため、周辺には独特な「間」が多くあります。

賃貸住戸部分の1階です。多用途に転用できるようデザインされています。

複雑な与条件をまとめ、建築へと落とし込む技術を建築家は持っています。

目的を達成することを超えて、豊かな空間、建築をデザインすることが建築家の能力だという事を改めて、気付かされます。

以下、青木弘司さんのテキストです。

世界のフレーミング
– 眼前に広がる事物や現象の総体としての世界を対象化し、場所性を再定義する建築 –

敷地は旗竿地でありながら、その面積は比較的大きく、隣家の庭などの空地にも面していて、適度に開かれている。周囲から守られつつも開放的な場所の特性を維持しながら、夫婦ふたりの住戸と賃貸住戸を備えた長屋を計画した。まず、敷地の中央に住戸の界壁を成すヴォリュームを南北軸に沿って配置した。そして、その周囲に、間口一間の切妻屋根の2層、ヴォールト屋根の2層、少し地下に潜った扇型の平屋というように、3つのプロポーションの異なる小屋を境界側に寄せて建て、それらに取り囲まれた場所を覆うように屋根を掛けて、各住戸の居間とした。 改めて近隣の建物を観察すると、非合理なモノの取り合いや、ある種の共同幻想によって支えられているようなマテリアルの組み合わせがあり、世界は実に曖昧だ。「相模原の家」では、この複雑な世界に歩調を合わせるように、周囲に見られる雑多なシーンを断続的に再現したり、ありふれたマテリアルの肌理を誇張して表現しながら、室内外の仕上げの区分やディテール、モノの並べ方を調整している。そのようにして、やや過剰に設えられたインテリアから臨む近隣の光景が、こちらに手繰り寄せられたものとして、より具体的に把握されることを意図した。 室内から周囲の風景を見たとき、あるいは、駅からの道すがら目に触れる風景の中で、この家を媒介にしながら、世界の成り立ちを想像し、見慣れた風景を対象化する。建築を介した世界のフレーミングによって、何気ない日常に主体的に価値を見出すことによって、この世界を自分たちの手に取り戻すことができるだろう。

  • 住所:神奈川県相模原市中央区
  • 敷地面積:229.37㎡
  • 建築面積:104.75㎡
  • 延床面積:120.94㎡
  • 構造規模:木造 地上2階建て
  • 設計・監理:青木弘司 + AAOAA 担当 / 青木 弘司 岡澤 創太 角川 雄太 高橋 優太
  • 構造設計:RGB STRUCTURE
  • 施工:栄伸建設
  • 不動産コンサルティング:創造系不動産 須永則明
  • 環境解析:中川純
  • 写真:永井杏奈
  • 掲載:GA HOUSES163 PROJECT 2019,住宅特集2020年4月号